体内の微生物は人間の思考や行動に作用していることが最新の研究で判明している。心の病の原因は、もしかすると体内で最も微生物の集まる腸の不調かもしれない。だとしたら、正解のないカウンセリングよりももっと簡単な解決の道が見えてくる。
これは遺伝子を持つ生命体なら誰しも逃れられない宿命である。
俺たち人間も、動物も、植物も、そして細菌も。
自然界にはふつうに存在する“心を操る微生物”
「冬虫夏草」といえば、漢方薬の高級品として有名だ。
冬虫夏草は菌類(キノコ)で、この菌に感染した昆虫は不可解な行動をとって死を迎える。
例えばアリなら、よく人間社会とも比較されるあのキッチリした巣社会での自分の義務をいきなり放棄して、集団を抜け出して黙々と木に登る。
そして、林床から150センチほど登ったところで木の幹の北側にある葉脈に深く食いつき自らの身体を固定する。
すると数日後に冬虫夏草が芽を出し、アリは死を迎える。冬虫夏草は胞子をばら撒き、新しいアリにとりつくことができる。
こうして、冬虫夏草は自身の遺伝子を後世に引き継ぐことに成功するのである。
狂犬病ウイルスも宿主のふるまいを大きく変えることで有名だ。
狂犬病ウイルスに感染した犬は、極度に攻撃的になる。そして、ウイルスをたくさん含んだ唾液を口のまわりに泡立てながら、噛み付く対象(新たな宿主)を探すようになる。
これも、狂犬病ウイルスからすれば、繁殖・繁栄に叶ったふるまいである。
人間のふるまいに影響を与える微生物も存在する
猫を飼っている人なら、トキソプラズマを知っていると思う。
トキソプラズマはネコ科の動物を終宿主とする単細胞生物で、トキソプラズマに感染したラットは、恐怖心が薄れ行動が大胆になるだけでなく、事もあろうに天敵である猫の尿の臭いに引き寄せられるようになる。
ちなみにこのトキソプラズマ、人間にも感染する。
ラットのふるまいに影響を与え、行動を支配してしまうトキソプラズマが人間に感染したらどうなるのだろうか?
もちろん、猫のおしっこフェチになったりはしない。
トキソプラズマに感染した場合の変化は男女によって異なる。
リスクを恐れなくなる、集中力散漫になる、規則を守らなくなる、危険行為を恐れなくなる、独断的になる、疑い深くなる、嫉妬深くなる、不安になりがちになる
明るくおおらかになる、心が広く決断力のある自信家になる、ふしだらになる、男性に媚びを売るようになる
トキソプラズマが分泌していると思われる、ラットにネコ科の動物に捕食されやすい行動をとらせるなにがしかの物質が人間に作用した場合、たまたまこのような違いが出るのだ、という見方もあるが、俺はこれも種の繁殖の理にかなっていると思う。
なぜなら、疑い深い、嫉妬深い男ほど貪るように浮気をするし、明るく決断力のある自信家の女は女から敬遠され、周囲が男友達ばっかりになるからだ。
ほら、繁殖の機会(チャンス)が増える結果になっているではないか。
ちなみに、統合失調症患者のトキソプラズマ保有率は一般の人の3倍にも及ぶ、というのも興味深い。
何故か増えている自閉症
今では信じられないことだが、かつて自閉症は1万人に1人に出る程度のレアな病気だった。
それが、なんかしらんけど増えている。
1960年代後期に行われた調査では自閉症の子どもは2,500人に1人程度だった。
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2000年:150人に1人(アメリカ疾病管理予防センターによるちゃんとした調査が開始された年)
↓
2004年:125人に1人
↓
2006年:110人に1人
↓
2008年:88人に1人
↓
2010年:68人に1人
たった10年で10倍になっとるやないか!
このままいくと、2020年には30人に1人の子どもが自閉症になり、2050年には1家族に1人の自閉症スペクトラム障害者がいる計算になる。
これは、ただ単純に自閉症だと診断される数が増えただけなのかもしれないし、メディアの発達で自閉症についての認識率が高まっただけなのかもしれない。
もしかすると、自閉症の人が増えることで利益を得る人たちがいて、彼らのプロモーション活動の成果なのかもしれない。
しかし、この増え方、まるで何かの感染症のようだ。
どこにでもいるあの菌が原因だった事例
破傷風菌(クロストリジウム・テタニ)を殺す抗生物質を投与した結果、自閉症がみるみる改善したという事例がある。
アメリカのある子どもは、生後15ヶ月検診で耳に感染症が見つかり、抗生物質による治療を行った結果、ふるまいに明らかな異常が見られるようになった。彼は、
- ひざを曲げずにつま先立ちで歩く
- 何度も何度も部屋の電気のスイッチを入れたり切ったりする
- 物に異常なまでの執着を示す
- 突然甲高い叫び声を上げる
など、明らかな自閉症の症状を示していた。
一般的な子どもが親の言うことを理解し始める3歳になっても彼の異常行動は一向に改善しなかった。
必死になって息子の異常行動の原因を探っていた彼の母親は、抗生物質の治療後に一部の人に重度の下痢が出現するクロストリジウム・ディフィシル感染症のことを知る。
そこで、同じクロストリジウム属で、身近な細菌である破傷風菌が原因ではないかと思いつき、医師に頼み込んで、彼の血液中に破傷風菌と戦った痕跡がないかを調べるスクリーニング検査を行った。
もちろん、アメリカでも幼児のほとんどが破傷風菌の予防接種を受けているので、痕跡が見つかるのは当然のことだったのだが、驚くべきことに、その抗体値はグラフに収まらないほどに高かった。
つまり、彼の身体は今まさに破傷風菌と戦闘中だったのである。
他の可能性を調べる検査の結果はすべて陰性だったため、彼に破傷風菌を殺す抗生物質による治療が行われることになった。
すると、わずか2日後に彼の多動が落ち着き、2週間後にはトイレを覚えるまでになった。
破傷風菌は神経毒素を出す。
傷口から感染した場合、その神経毒素によって筋収縮が起こるが、腸に感染した場合、神経毒素が腸から脳に運ばれてふるまいに影響を及ぼすものだと考えられた。
2001年、自閉症児13名と健康児8名の大腸内の微生物を比較する実験が行われた。
その結果、破傷風菌そのものは見つからなかったものの、自閉症児は健康児に比べて、腸内に破傷風菌の仲間であるクロストリジウム属の細菌が10倍も多くいることがわかった。
破傷風菌と同じクロストリジウム属の細菌も、脳にダメージのあるなにがしかの毒素を出していると考えられている。
つまり、上記の子どもの場合、1歳から開始された耳の感染症治療で使用された抗生物質が、通常なら腸内で破傷風菌の定着を防いでいる細菌までをも殺してしまっていたため、腸内で破傷風菌が繁殖し、産生した毒素が脳へ到達していたと考えられる。
腸内環境を侮らない
このように、人間の身近にいる微生物の中には、生命活動の一環としてなにがしかの化学物質を産生するものがいて、それが人間に作用した場合に行動の変化や思考の変化まで起こしてしまうようなことが実際にあるのだ。
腸内細菌のはたらきというのはまだ完全には解明(観測)されていないが、少なくとも、腸内細菌が幸福感のもとであるセロトニンの原料となるトリプトファンを破壊する免疫系を抑止して、結果的に体内のセロトニンを増やすはたらきをしてくれていることは間違いない。
見事、間接的にではあるが人間のマインドに幸福感というかたちで作用しているのだ。
幸福感が高まれば、当然のごとくマインドはポジティブに、そして行動は軽やかになる。
腸壁の折り目やくぼみ1mlあたり1兆個の微生物が棲んでいる。
俺たちの幸福感を増やしてくれるような好意的な細菌だけではなく、その逆も当然いると見るのが自然だろう。
肝臓とか腎臓とか胃が不調を起こしたときに、カウンセリングで治そうとする人はいないだろう。
しかし、なぜか脳(心)の不調となると、まるでみんな思考停止したかのように、本人や生活習慣、親の教育、環境のせいになるのだから不思議だ。
実際、心の病気や神経症の患者には、消化器系の症状が出ていることはよくあるが、行動の変化にばかり焦点が当たって、胃腸障害などは毎回無視されているのが現状だ。ちゃんと腸はサインを出しているのだ。
健全な精神は健全な腸に宿るのだ。
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